アニサキスアレルギー

1)アニサキスアレルギーとアニサキス症

アニサキスは線虫と言われる魚にいる寄生虫です。

クジラやイルカを宿主とし、宿主の腸内で卵を産み、フンと一緒に海にでます。海中で卵の状態やふ化したアニサキスは、Planktonic crustaceansといわれるオキアミなどに食べられます。その後、そのオキアミを食べた魚やイカなどがに感染します。さらにその魚を食べるもっと大きな魚に、アニサキスは何度も感染していきます。これらの魚やイカなどを食べることで、アニサキスは人間の体内に入ります1、2)

アニサキスは様々な種類がいますが、アニサキスアレルギーの原因になるのは、アニサキス・シンプレックス(Anisakis simplex s.)です2,3)

アニサキスが人間に起こす病気は大きく2つあり、生きたアニサキスが人間の胃や腸で激烈な痛みを起こすのが「アニサキス症」アニサキスの生死にかかわらずアレルギー症状(かゆみ、呼吸苦とか)を起こすのが「アニサキスアレルギー」です。

アニサキス症は激烈な心窩部痛が特徴で、患者さんが七転八倒していることが多いです。救急をやっていた時によく診察しました。内視鏡でアニサキスを取り出します。

また、アニサキス症では急性膵炎や肝障害を合併することも報告されており4)、とても耐えられる痛みではありません。アニサキス自体は60℃で1分以上、-20℃で24時間、-35℃で15時間で死にますので、「アニサキス症」は、調理することで防げます。

つまり、生きている状態=魚の刺身でおきます。

しかし、アニサキスのアレルゲンはアニサキスが死んでも残り、過熱、冷凍にも強いので、アニサキスアレルギーは魚の調理方法は関係なく、残念ながら食べられないものは食べられません。

2)アニサキスアレルギーは平均年齢60.1歳、ショックは平均年齢46.8歳

アニサキスアレルギーが最初に報告されたのは1960年のオランダです5)

アニサキスアレルギーは食生活が関連していますので、日本やヨーロッパを中心に報告がありますが、論文としてはスペインからの報告が目立ちます。

原因となる魚介類としては、サバ、サンマ、カツオ、ビンチョウマグロ、ツブ貝、アナゴ、ヒラメなどなんでもありです1)

症状としては、腹痛、下痢、嘔吐の胃腸症状のほかに、蕁麻疹、呼吸苦などの形でも出ます。

ちなみに、私が治療したアニサキスアレルギーの人は、平均年齢60.1歳、全例がアナフィラキシーで搬送されていました。つまり、アナフィラキシー率100%です。私が治療した全アナフィラキシー患者中の約8%にあたります。

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一方で、アニサキスアレルギーによるアナフィラキシーの中でも、さらに重症化したショックを起こした人は、平均年齢は46.8歳とぐっと下がり、割合としては約21.4%でした。

ショックを起こした人は、全例が意識消失を伴っており、病院到着時に痙攣したり、心電図で心筋梗塞様の所見が見られた人もいました(後の検査で心血管疾患は否定、アナフィラキシーに続いて心筋梗塞が誘発されるKounis syndromeを起こしかけていたのだと思われます)。

私が治療したアレルギー全体でのアナフィラキシーと比べてみます。アナフィラキシ―を起こした人は平均年齢42.0歳で、受診患者の約26.0%でした。ショックになっていたのは、平均年齢45.1歳、約10.1%です。

私は、重症の方を診察・治療するので、示した数字は大きな偏りがあることが大前提ですが、アニサキスアレルギーの発症は60歳台以降、アナフィラキシーを起こす確率は高く、ショックに進展するのは40歳台が危なさそうとゆう傾向にありそうです。

今後は高齢化と長寿の問題からアニサキスアレルギーは増加するであろうし、アナフィラキシーと同時に心血管疾患を併発することも増えそうな気がします。

3)アニサキスのアレルゲンは「Ani s 7」 

アレルゲンとは、アレルギーを引き起こす原因となるタンパク質のこと。

アニサキスアレルギーの主要なアレルゲンはAni s 7と呼ばれるタンパク質ですが3)、これは日本の健康保険の採血では計測できず、大学など研究目的で計測できるところがある程度です。

健康保険の採血項目にある「アニサキス」は、検査結果の値がどのくらいならアニサキスアレルギーが確定するのか基準はありません。

また、食生活で魚を多く接種すれば、アニサキスを摂取する頻度も増えるので、採血結果の見た目上で検査値が上昇することは普通です(これを感作といます)。

このため、アニサキスの検査結果が40~50と高くても問題ない人も結構います。

ただし、私のところに搬送されてきた方は検査値がほぼ70以上でしたので、このくらい高ければ採血と症状を起こした状況からアニサキスアレルギーと確定できると思います。

もちろん、アニサキスの検査値が40~50なら大丈夫だとゆうわけではありません。

採血があてにならないので、通常は皮膚テストも併用します。アニサキスは皮膚テスト用の検査液がないので、昔は魚を自分で買ってきて捌き、見つけたアニサキスを使ったりしていました。

結局、診断するには問診と状況確認が最も大切で、次に採血を参考にし、魚アレルギーを否定するために皮膚テスト、ならびに実際に食べてみる負荷試験を行っています。

問診では、アレルギー症状が発症する時間経過で、わかることもあります。

4)アニサキス症、魚アレルギー、ヒスタミン中毒と鑑別が必要

あくまでも経験的ですが、日本人がアニサキスアレルギーを起こすときは「刺身盛り」を食べた後がほとんどで、どの魚にアニサキスがいたのかなどはわかりません。

アニサキスは、魚の身と皮の間にいると言われていますが、時間経過で身の中に入り込むことも報告されています。このため、自分で魚をさばいた人が、アニサキスがいたのでよけた。けれど、刺身を食べた後にアナフィラキシーを起こした、なんて方もいました。

アニサキスアレルギーは、状況と時間経過で疑うこともできます。

また、成人の食物アレルギーが10~60分以内と短時間でアレルギー症状を起こしてくることが多い一方で、アニサキスアレルギーは発症までの時間帯に差があり、60~180分くらいな印象です。典型的なシチュエーションでは、宴会後に帰宅してから自宅でアナフィラキシーを起こします。

10年くらい前は深夜12時くらいに搬送されてくることが最も多かったですが、ここ数年は22時頃が多い印象です。早く飲んで、早く帰宅する傾向にあるようです。

これも経験的なものですが、成人の食物アレルギーは、軽いアレルギー症状を繰り返しているのを無視、そのうち徐々に重症化してくることが多いのに対し、アニサキスアレルギーは、ある日いきなりアナフィラキシーを起こす印象があります。

#「小麦の食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、例外」はこちら

アニサキスアレルギーと鑑別が必要なものに、魚アレルギーとヒスタミン中毒があります。成人で魚アレルギーが発症してくることは珍しく、手が荒れたまま職業的に魚を扱う人以外は、成人での魚アレルギーの発症はほぼありません。

また、魚アレルギーの主要アレルゲンは「パルプアルブミン」で、全魚種共通です。

このため、1種類の魚だけに症状がでることはなく、基本は全ての魚で症状がでます。ここが、魚アレルギーと1回のエピソードしかないヒスタミン中毒との大きな違いになります。

#魚アレルギーはこちら

ヒスタミン中毒は、scombroid poisoningとも呼ばれています6,7)俗にいう「青魚に当たった」ですが、これもアニサキスアレルギーと鑑別が必要です。

ヒスタミン中毒は、前駆物質であるヒスチジンを含んだ魚(ビンチョウマグロ、カツオ、サバなど)が、陸揚げから4時間経過すると、魚の腸内などにいるモルガン菌によりヒスチジンが脱炭酸され、ヒスタミンに変化すると報告されています。このヒスタミンを多く含む魚を食べることで、「アレルギー様症状」がおこります6,7)

アレルギーとは、体内に侵入したアレルゲン(つまり、タンパク質)を体が敵だと判断すると、形質細胞がIgE抗体を産生します。このIgE抗体は肥満細胞に結合、次にアレルゲンが侵入するのを待っています。そして、再びアレルゲンは侵入してきた際にこのIgE抗体と結合し、ヒスタミンなどの物質を放出することでアレルギー症状がおこります。

ヒスタミン中毒の場合には、この過程を飛ばして直接ヒスタミンを摂取してするため、アレルギーと同じ症状がおこります。なので、アレルギーではなく「アレルギー様症状」なのです。「食中毒で、アレルギーみたいな症状が出ちゃった」が、分かりやすいと思います。

経験的には、ヒスタミン中毒は魚を食べている最中から症状が出ます。つまり、アニサキスアレルギーと違い、症状の出現が早いのが特徴です。

ヒスタミン中毒は検査ができないので、アレルギー症状が落ち着いたあと(多くは1ヶ月以上あけて)、皮膚テストや実際に魚を食べて症状がでないことを確かめる食物負荷試験を行って確定します。

経験的に、ヒスタミン中毒は人生で1回経験すれば多い方で、よほど運が悪くない限りはヒスタミン中毒を2回起こすことはありません。つまり、その後も食生活に変化させる必要はありません。高齢の方が「サバで蕁麻疹が~」とお話しされているあれで、聞くと大体が1回のエピソードだけで終わっており、その後は普通に食べています。

一方で、アニサキスアレルギーと診断された場合には、どの魚にアニサキスがいるのか全くわからないために、魚全部、イカ、タコ(タコは珍しけど報告はある)などは食べられません。かまぼこなどの練り物も同様ですし、魚卵にも入り込んでいることが分かっているのでやめた方が良いです。

また、マグロなどの大型魚の筋肉にはいないとも言われたりしていますが、マグロでアニサキス症をおこした症例報告も少なくはないので、「魚」はやめた方がよいでしょう。生態として貝類にいる可能性は少ないですが、ツブでのアニサキスアレルギーの報告はあります。

エビ、カニはアニサキスの中間宿主ではないとの報告もあり、アレルギーの報告はまだ見たことがありまません。「多分ですけど大丈夫」としか言えません。

一方で、インドネシア産などのブラックタイガーは池での養殖なので、アニサキスはいません。

つまり、淡水魚にもアニサキスはおらず大丈夫ですが、海から川に戻るサケなどの魚はアニサキスがいる可能性が高いです。リスクがあることはやめた方が良いです。イクラにアニサキスがいる画像を見たことがあります。

患者側としては診察中にいろいろ質問したくなりますが、実際に生活だと魚を厳選するのは大変です。「魚介類として、全てやめてしまう」がリスクを考えると正解です。

アニサキスアレルギーでは、「食べないことが治療」です。

が、一方で半年ほど「魚を完全除去=一切摂取しない」と、採血上でアニサキスの値が下がるタイプの方がいます。このタイプの方は療法があるので試してみる価値はあります。主治医に相談して、治療可能な医者を探してみるのも手です。

真似をされる方がいらっしゃると危険なので、ここでは治療方法の記載は控えます。

5)だから、これが必要です

①調理方法は関係ありません

アニサキスのアレルゲンはアニサキスが死んでも残り、過熱、冷凍にも強いです。

②魚は食べられない

完全個別隔離で養殖された魚や淡水魚以外には、アニサキスが寄生している可能性があります。

③ちょっとずつ食べて慣らす

かなり専門性が高く、個人でやるのは危険です。

 

参考文献

1)Natalie E. Nieuwenhuizen. Anisakis – immunology of a foodborne parasitosis. Parasite Immunology 2016; 38: 548–557.

2)アニサキス食中毒の予防対策 – 日本水産資源保護協会

3)A. M. Anadón, etal. The Anisakis simplex Ani s 7 major allergen as an indicator of true
Anisakis infections cei_3919. British Society for Immunology, Clinical and Experimental Immunology, 156: 471–478, 2009.

4)F. F. Vega de la Osada. Anisakis simplex (A.s.) Induced Acute Pancreatitis and Hepatic Involvement in Gastroallergic Anisakiasis. DOI:https://doi.org/10.1016/j.jaci.2004.01.642.

5) Van Thiel, etal. A Nematode Parasitic to Herring, causing Acute Abdominal Syndromes in Man. Tropical and Geographical Medicine.12; 2:97-113, 1960.

6)Piero Stratta, etla. Scombroid poisoning.

7)Charles Feng, etal. Histamine (Scombroid) Fish Poisoning: a Comprehensive Review. Clin Rev Allergy Immunol2016 Feb;50(1):64-9.

 

この記事を書いた人

アルバアレルギークリニック院長

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