アレルギー性鼻炎とは
アレルギー性鼻炎は、花粉やダニなどのアレルゲンが免疫システムを刺激し、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどの症状を起こします。
鼻の構造とアレルギー反応の始まり
鼻は、呼吸、嗅覚、声の響きといった機能を持ちます。鼻の中は、鼻中隔という壁で左右に分かれています。左右の鼻には、下甲介や中甲介といった粘膜で覆われた骨があり、特に下甲介粘膜は、抗原が付着しやすい場所で、アレルギー反応の主な発生地です。ダニや花粉などのアレルゲンが鼻の粘膜に付着すると、IgE抗体が生成され、感作と呼ばれる状態になります。
アレルギー反応
IgE抗体が肥満細胞などの表面に結合し、再びダニや花粉などのアレルゲンが侵入すると、抗原抗体反応が起こります。
これにより肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどのアレルギー症状を誘発する化学伝達物質が放出され、血管の拡張をもたらし、鼻づまりが起こります。また、粘膜に分布する知覚神経に作用し、くしゃみや鼻水の原因となります。
身体は鼻から吸い込んだ異物を排出するために、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった防御反応を示します。
アレルギー性鼻炎では、これらの反応が過剰な状態で、自分自身を苦しめることになります。アレルギー性鼻炎は体質的な病気で、通常は薬で完全に治るわけではなく、自然に治る確率は約10%とされています。
アレルギー性鼻炎の原因
アレルギー性鼻炎には通年性と季節性があり、両者を合併することは多いです。近年では、アレルギー性鼻炎を持つ子供の増加と発症の低年齢化が報告されています。
アレルギー性鼻炎は、通年性は「(一般的に知られている鼻炎)通年性アレルギー性鼻炎」、「慢性鼻炎(特定のアレルゲンは不明)」
季節性は「花粉症」と、3つに分けて考えるとわかりやすいです。
通年性アレルギー性鼻炎:
主に室内のダニ(以前はハウスダストとよばれていた)に対してアレルギーを起こし、年間を通して症状が続くもの一般的に知られているアレルギー性鼻炎のことです。
北海道の家は、その気候から気密性が高く、ダニアレルギーの割合が全国平均よりも高いと思われ、30%以上の人がダニアレルギーを持っているとされています。
慢性鼻炎:
特定のアレルゲンは不明だが、常にアレルギー性鼻炎と同じ鼻水、鼻閉の症状がつづく。
花粉症:
花粉が飛ぶ時期にだけアレルギー症状が現れる。地域によって原因となる花粉が異なり、花粉症状のピークの時期も異なります。
近年では、採血ではわからないマイナーな花粉に症状を出す方が増えています。これも地域差があり、ピークの時期が異なります。
これらの症状は、通常の風邪と似ているため、時々混同されることがあります。
しかし、アレルギー性鼻炎は風邪ウイルスによるものではないので、短期間では治らず、ずっと症状はつづき、繰り返します。
アレルギー性鼻炎の症状
アレルギー性鼻炎では、多種のアレルゲンに対して反応することが多く、自然に良くなることは少ないです。
このタイプの鼻炎は喘息や副鼻腔炎を引き起こすことも多く、症状の表現が不明確な場合もあります。
アレルギー性鼻炎の基本的な症状
アレルギー性鼻炎の主な症状は「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」です。これは多くの花粉や他のアレルゲンによって引き起こされ、特定の状況で悪化することが多いので、本人が原因を分かっていることも多いです。
症状の特徴と生活への影響
くしゃみ:連続して起こり、回数が多い特徴があります。
鼻水:無色でサラサラしており、粘り気がないのが一般的とは言われていますが、個人差があります。
鼻づまり:鼻の粘膜の腫れによって起こります。ひどくなると常に詰まった感じがあり、治療が遅れるとなかなか治りません。
これらの症状により、日常生活に支障をきたすことがあり、たとえば、鼻のかゆみによる起床や集中力の低下や睡眠不足、イライラといった影響が出ることがあります。
症状の分類と重症度
アレルギー性鼻炎の症状は、「くしゃみ・鼻水型」「鼻づまり(鼻閉)型」「充全型」に分類されます。
症状の頻度や程度によって重症度が判定され、例えば、1日にくしゃみや鼻をかむ回数が20回を超える、または鼻が1日中つまっている場合は最重症とされます。
アレルギー性鼻炎は目やのどにも炎症の症状を引き起こすことがあります。
特に目の症状では、涙やかゆみ、赤みや腫れが現れることがありますし、発熱、咳や呼吸苦などの呼吸に症状が出ることもすくなくありません。
アレルギー性鼻炎の合併症
アレルギー性鼻炎になるとちくのう(副鼻腔炎)や気管支喘息になる可能性が高まります。また、北海道では花粉症になると約50%の人がナッツを含めた果物・野菜アレルギーを発症します。
北海道の花粉は、全身症状を起こすことも多く、アナフィラキシーやアトピー性皮膚炎・気管支喘息の悪化も引き起こすことも多く認められます。
アレルギー性鼻炎の検査
アレルギー性鼻炎の診断には、まず問診と診察が必要です。
問診では、症状の種類、発症年齢、症状が出やすい時期、家族歴、他のアレルギー疾患の有無などを確認します。また、鼻粘膜の腫れの状態を直接診察することで、症状の詳細を把握します。
アレルギー性鼻炎の診断基準
アレルギー性鼻炎の診断基準は以下の通りです。
鼻汁中の好酸球の陽性反応
抗原特異的血清IgE抗体検査または皮膚試験の陽性反応
鼻粘膜抗原誘発検査の陽性反応
アレルギー検査
アレルギーの原因を特定するために、いくつかの検査が行われますが、メインは血液検査になります。
血液検査:アレルゲン特異的IgE抗体の検査を行い、最も多いタイプの花粉、カビ、ダニ、動物などのアレルゲンに対する反応を調べます。
鼻腔内検査(鼻鏡、内視鏡検査):鼻の内部を直接観察し、鼻水や鼻の腫れなどを診断します。
当院では主に血液検査を行っています。約200種類のアレルギー原因抗原を調べることが可能ですが、33種類など多数の項目を検査する方法では、精度が悪く当院では行っていません。
保険適用では13種類までとなります。
当院での採血検査
当院では主に血液検査を行って診断します。約200種類のアレルギー原因抗原を調べることが可能ですが、33種類などの多くの項目を検査する方法は精度が悪く、保険適用では13種類までとなります。
アルバ式アレルギー検査
アレルギー性鼻炎の治療
通常の治療
ダニアレルギーの治療には通常、薬と点鼻スプレーが使用されますが、これらの効果は約60%の人にしか現れません。もし2~4週間の治療で効果が見られない場合は、薬剤の変更や、個々に合った薬の選定が必要になります。しかし、薬は症状を抑えるだけであり、完全に抑えきることは難しい場合も多いです。
免疫療法
唯一治ることを目指せる治療です。
アレルギーを起こす成分が薬としてあるので、それをちょっとずつ注射や内服にて体を慣らしていく方法になります。
治療期間は最低3年、推奨5年です。
2015年以前、日本ではダニアレルギーを治療する薬は一般的ではありませんでしたが、世界ではダニアレルゲン免疫療法が主流でした。
この免疫療法はアレルギーを治療することが期待できる唯一の方法とされています。免疫療法を行う際は、最低3年、推奨されるのは5年の治療期間が必要です。
免疫療法には注射と舌下(内服)の二種類があります。効果は基本的に同じですが、注射の方が有効だとされる報告が複数存在します。
これは、舌下治療の場合、毎日自己管理が必要なため、忘れがちになることさえ注意すれば、最終的な効果は同じです。
(2024年3月:2023年4月までのご予約の患者様にて、ダニ皮下免疫療法は終了となりました)
1. 薬の内服について
- ダニアレルギー治療を開始してから3~6か月で抗アレルギー剤の内服を徐々に減量し、中止を目指します。
- 皮下注射を行う日は、注射の30分前には抗アレルギー剤を内服する必要があります。
- 状況に応じて抗アレルギー剤の継続が必要な場合があります。
2. 治療を休む日
- 体調が悪い時や疲れている時、また熱がある時は治療を中止し、完全に回復するまで薬はお休みです。
- 生理期間中は、特に小学校高学年から中学生にかけて、ホルモンバランスの影響でアレルギー症状が出やすいため、治療方法に応じて対応を変えます。
- 睡眠不足の時も、アレルギー症状が出やすくなるため、注意が必要です。
舌下投与の注意点
- 治療開始時には、内服後に口内のかゆみが起こることがあります。
- 最初の1週間は薬剤の濃度が薄い黄色の段階で、その後濃度が濃いピンクに移行します。かゆみが再発する可能性があります。
- 内服後のかゆみは通常1週間程度で治まります。症状が軽い場合には継続してください。
- 1ヶ月を過ぎても続く場合や症状が強い場合は反応が強すぎるため、次回の診察まで中止し、診察にて薬の量を調整します。
皮下注射の注意点
- 注射部位の腫れや鼻の症状が改善されるまで、医師が薬剤の量を調整します。
- 年齢が小さい子は、注射前に冷やすことで注射の痛みを軽減できる場合があります。
- 注射による反応が大きい場合(10㎝以上の腫れなど)は、次回の薬剤量を調整します。
副作用と注意事項
免疫療法は体をアレルゲンに慣らす治療であるため、局所反応や全身反応が起こる可能性があります。注射では全身反応が0.005%、内服ではほぼ起こりません。
しかし、注射や舌下前の内服、睡眠不足時や体調不良時の治療の避けるなどの対策で副作用のリスクは減少します。
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