全身から取り組むアトピー性皮膚炎治療ガイド

アレルギーは一本の糸でつながっている
かゆみや咳、鼻水…
「肌がかゆくて、夜も寝られない…」「食事のたびにお腹が痛む…」「ハウスダストでくしゃみが止まらない」
あなたは今、アトピー性皮膚炎だけでなく、食物アレルギーや喘息、花粉症、ダニアレルギーなど、複数のアレルギー症状に悩まされてはいませんか?
「このかゆみだけ治せればいいのに」「この咳だけなんとかしたい」と思っても、なかなか一つの症状だけで完治しない。
むしろ一つ治ると別の症状が悪化してしまうことすらある。そんな経験を繰り返している方は非常に多いでしょう。
私たちはしばしば「アトピーはアトピー」「喘息は喘息」と別々に考えてしまいがちです。
しかし、実はすべてのアレルギーは体の中でつながっていることをご存じでしょうか?
体質としての「アレルギー素因」は、肌に出ればアトピー性皮膚炎、食べ物に出れば食物アレルギー、呼吸器に出ればぜんそく、鼻に出ればアレルギー性鼻炎…と、“形を変えて”現れるのです
つまり、「肌だけ」「食べ物だけ」「鼻だけ」を別々に治療しようとしても、根本の体質が変わっていない限り、次々に別のアレルギーが顔を出し、治りにくいまま慢性化してしまう。それが何年も何十年も続く方が多いのです。
これからお話しする「アレルギー治療の本質」は、症状を一つずつ切り離して対処するのではなく、体の中のアレルギー素因を総合的に変えていくという考え方です。
お子さんを持つ保護者の方なら「わが子が肌につらそうな紅斑を抱え、夜も眠れない」苦しみをなんとかしたいはず。
大人自身であれば、「仕事中や学校、外出先でもかゆみが気になって集中できない」苦悩から解放されたいはず。
その思いに寄り添いながら、体の内側から本気で変えていく方法を一緒に考えましょう。
2. アトピーだけ、食物アレルギーだけ…ではうまくいかない理由
2.1 アレルギーは全身症状のつながり
前述のとおり、アレルギーは「皮膚に出る」「食物に出る」「気道に出る」「鼻に出る」「目に出る」と症状の形は異なっても、本質的には同じアレルギー素因によるものです。
たとえば、赤ちゃんのころにミルクや卵でアレルギー反応を起こした子は、幼児期にアトピー性皮膚炎を発症し、さらに小学生になるとハウスダストによるアレルギー性鼻炎を併発し、中学生で喘息を発症する…という「アレルギーマーチ」と呼ばれる現象を経験することがあります。
つまり、一度アレルギーの芽が体に芽生えると、別のアレルギーへと波及し、増えていく可能性が高いのです。
2.2 部分的な対処では「後から別の症状」が襲ってくる
多くの方はつらい症状が出るたびに*「これだけをなんとかしたい!」*と考え、
- アトピーならば保湿剤やステロイド外用薬を塗る
- 食物アレルギーならばその食品を除去する
- 鼻炎ならば点鼻薬や抗ヒスタミン薬を服用する
- 喘息ならば吸入ステロイドや気管支拡張薬を使う
というように、各症状ごとに「対症療法」を繰り返してしまいがちです。
しかし、これでは「かゆみが治まったら、すぐ再発してしまった」「○○を食べられるようになったが、皮膚に湿疹が出るようになった」「鼻の症状が改善したら、気管支がまた苦しくなった」といった悪循環に陥ることが多いのです。
なぜなら、部分的な対処だけで体質そのものが変わっていないから。
体の中では、いつもアレルギー反応にかかわる免疫細胞や炎症性サイトカインがくすぶっており、どこかに小さな火種を抱えているような状況だからです。
2.3 慢性化の怖さ:治療を続けても「本当の治癒」にたどり着かない
アレルギーを放置すると、その小さな火種は慢性炎症へと進展していきます。アトピー性皮膚炎であれば、
- 1歳未満:2ヶ月以上、
- 1歳以上:6ヶ月以上、
かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返している状態を「慢性化」と定義します。
慢性化した肌では皮膚バリア機能が次第に壊れ、外からの刺激(ダニ・ほこり・花粉・洗剤など)を通しやすくなります。
さらにスキンケアの回数を増やしても、必要以上に薬を塗っても、根本原因にアプローチしない限り、いつまでも**「塗ってはぶり返す」**状態を抜け出せません。
同様に、食物アレルギーも除去していれば症状は出ないものの、一歩間違えば食べた瞬間にアナフィラキシーを起こすリスクを抱えたまま。喘息やアレルギー性鼻炎も、薬で気道を広げれば楽にはなるが、根本的な肺や気道の炎症が解消されたわけではないため、長期的に吸入ステロイドを使い続けることへの不安が消えません。
結果として、「薬を塗り続ける」「除去を続ける」「薬を飲み続ける」だけが治療になり、本当の意味での「治った」状態にならないまま、人生の多くの時間をアレルギーに依存してしまう。その先に待っているのは、症状の重症化、QOL(生活の質)の低下、さらには精神的ストレスによるうつ症状や不安障害の増加などです。
3. 解決策の提示:総合的アプローチがカギ
3.1アレルギー科の特別な治療:体質改善をめざす
アレルギー科では、部分的な対症療法ではない、「アレルギー素因そのものを変える」治療を行います。たとえば、
- 免疫寛容療法(舌下免疫療法/皮下免疫療法)
- 食事指導による栄養バランス改善
- 生活環境の見直し(ハウスダスト対策・ダニシート・室内湿度管理など)
- 皮膚バリア機能を高めるスキンケア指導
- 必要に応じた薬の使い分け(内服薬・外用薬の適切な塗布スケジュール)
これらを組み合わせることで、体の中でくすぶっている「アレルギーの火種」を徐々に消していき、「アレルギー素因を根本から変えていく」ことが可能になります。つまり、単に「アトピーだけを治す」わけではなく、「アレルギー体質全体を変えていく」という考え方が、成人であっても子どもであっても同じように大切なのです。
2 アルバのアトピー性皮膚炎治療モデル──「卒業」を目指す5ステップ
では、具体的にはどのように治療を進めればいいのでしょうか?私たちが提唱するアルバ式アトピー治療モデルでは、以下の5つのステップを設定し、「薬を使いながらもやがて使わない日常へ」を共通のゴールに据えています。大人であっても同様の流れで、体質改善を行なっていきましょう。
ステップ①:とにかく早く症状をゼロにする(3週間〜1ヵ月)
まずは「かゆみも湿疹もない状態を作る」ことに徹底的にこだわります。
- 外用薬の適切使用:症状が出ている部分にステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を塗り、「炎症を最速で沈静化」させます。不要に弱い薬を塗るのではなく、適切な強さの薬を短期間でも確実に使い切ることが重要です。
- 抗ヒスタミン薬・漢方薬の内服:かゆみを根本から抑えるために、必要に応じて内服薬を併用。とくに夜間のかゆみを抑えるために就寝前の内服は効果的です。
- 集中保湿ケア(1日2〜3回):クリーム・軟膏ベースのセラミド配合保湿剤を1日2〜3回、たっぷり塗り込むことで皮膚バリアを再構築。入浴後や洗顔後すぐに塗る「黄金の5分ルール」は必ず守りましょう。
この時期は、「とにかくつるつる・すべすべ」の肌を目指し、生活習慣も見直して、「炎症が一切起きない状態を作る」ことに集中します。
仕事や家事が忙しくても、カバンに保湿剤を入れておき、乾燥を感じたらすぐに塗り直すなど、できるかぎり肌に刺激を与えない配慮を忘れずに。
体質改善の第一歩は、「あらゆる刺激を断つ」ことから始まるのです。
ステップ②:症状ゼロを約6ヵ月〜1年キープする
つるつる肌を手に入れたら、次の段階ではその状態を維持することがゴールです。
- 外用薬は「常用量」から「減用」へシフト:症状が消えたら、まずはステロイド外用薬の使用頻度を週3回程度に減らし、その後週1回にまで漸減。
- 保湿ケアは継続:外用薬を減らしても、保湿ケアは徹底的に続け、「保湿剤だけで皮膚バリアを保つ」状態へ移行していきます。
- 生活習慣の継続的な見直し:夜の入浴時間や温度、睡眠時間、食事内容(抗炎症作用のある食品を意識)を習慣化し、「つるつる肌を維持できる日常習慣」を確立します。
この時期を乗り切ることで、「何の薬も塗らずに肌が安定する」という本当の意味での治療スタートラインに立つことができます。
ここまで来れば、皮膚バリアはかなり回復し、外用薬なしでも多少の乾燥には対応できる状態です。
ステップ③:3~5年かけて、薬をさらに減らす
この期間をクリアしたら、いよいよ本格的に「薬をさらに減らす」フェーズに移ります。
- 保湿剤だけで維持できるかチャレンジ:ステロイドは完全にストップし、セラミド配合の保湿剤だけで肌を守る生活に挑戦。もし乾燥や軽微な赤みが出てきたら、原因を確認(季節変動、ストレス、食事など)し、早めに対処します。
- 再発の早期発見と対処:保湿だけで抑えられない場合、ごく弱いステロイドを再び短期間塗って炎症を抑え、その後また保湿のみの状態に戻す…という「ころころ短期治療サイクル」を徹底します。
- 原因物質の特定:アレルギー検査を活用し、まだ知らなかった食物や環境因子が炎症を誘発していないかを確認。必要ならば除去食やハウスダスト対策を強化します。
このフェーズでは、「全く薬なしでずっと平穏な肌」を目指すよりも、「薬を最小限に使いながら再発を完全に回避する」ことを意識してください。薬を使うことをネガティブに捉えず、「必要なときだけほんの少量」の使用ですむようになることが目標です。
ステップ④:保湿だけで症状ゼロの期間を1年〜2年キープし、「薬卒業」へ
ステップ③をクリアし、保湿剤のみで1年〜2年の間、症状ゼロを維持できたら、ついに「薬卒業」の扉が開きます。
- 保湿剤だけの生活を確立:ワセリンやヒト型セラミド配合クリームで十分に皮膚バリアを保てるようになり、季節の変わり目にも大きなトラブルが起きなくなるのが特徴です。
- 日常的にアレルゲンを遠ざける:食べ物やハウスダスト、ペットなど、これまで炎症を引き起こしていたアレルゲンをきちんと避ける習慣は続けます。これが再発予防のキーファクターです。
- ライフスタイルを見直す習慣が定着:睡眠、食事、ストレスケア、スキンケア法が完全にあなたの生活の一部となり、かゆみを引き起こす要因を最小限に抑えます。
この時点で、「薬を使わない」という腑に落ちる感覚と、「かゆみや湿疹がいつ再発するか」の不安から解放される心の余裕を手に入れることができます。
ステップ⑤:卒業後も再発ゼロを目指し、生活の質を守る
薬卒業後も、再び炎症を起こさせないための生活習慣は継続します。
- 定期的なセルフチェック:かゆみや赤みがほんの少しでも出たら、すぐに「保湿を増やす」「生活習慣を振り返る」「必要なら早めにクリニックへ相談する」という早期対処を習慣化。
- 季節の変わり目やストレスが増大するタイミングに注意:冬や春先など、肌が乾燥しやすい時期には保湿頻度を増やし、心身に負担がかかる時期にはストレスケアを強化します。
- 「アレルギーはつながっている」意識を忘れない:肌が安定しても、食生活や住環境に新たな変化があったときは、他のアレルギーが悪化していないかチェック。例えば、新しいペットを飼い始めた、引っ越してダニ環境が変わった、職場が変わってストレスが増えた…など、小さな変化が肌に表れる前に手を打ちましょう。
この最終フェーズでは、「薬を完全に卒業したけれど、生活習慣とセルフケアは一生続ける」というライフスタイルを手に入れられます。
「かゆみも湿疹もまったくない期間を維持しながら、万が一の再発時には最小限の対処で済む」状態に到達できれば、人生の質(QOL)は大きく向上します。
4. “アレルギーは全部つながっている”という真実
アルバ式アプローチを実践するうえで大切なのは、以下の3つのポイントです。
- 体質の根本から変えることにコミットする
- 肌だけ、食べ物だけ、鼻だけ…と一部の症状を切り取って対処しても、根本的な治癒にはたどり着きません。アレルギーは全身的な問題であり、「かゆみも咳も鼻水も、お互いに影響し合っている」ことを理解しましょう。
- 複数のアレルギーを同時に視野に入れて治療計画を立てる
- アトピー性皮膚炎の治療中に食物アレルギーが再発し、肌がヒリヒリしてステロイドが使えなくなる。あるいは喘息を抑えるために内服薬を増やしたら鼻炎が悪化した…。このような治療同士のぶつかり合いを避けるために、複数のアレルギーを抱える患者さんにはアレルギー専門医による総合的な治療が必要です。
- 「薬で抑え込み→卒業」というプロセスを経ることが最短かつ最強の近道
- 「薬ジプシー」になって何を塗っても一向に改善しない、という人は少なくありません。アルバ式では**「とにかく早くつるつる肌にしてから、薬を減らし、最終的に保湿だけの生活を目指す」**という分かりやすいステップを示しています。この道筋があることで、患者さん自身も「次に何をすればいいのか」がはっきりし、モチベーションを維持しやすいのです。
5. 診療現場からのメッセージ:安心して相談してください
大人であっても、お子さんの保護者であっても、「もう治らないかもしれない」という不安はつきまといます。
ですが、アレルギー科には特別な治療法と薬の使い方があり、総合的にアレルギーをコントロールしていく術があります。私たちは以下の点を約束します。
- 最初から「薬を続けさせる」のではなく、「薬を卒業できる道筋」を描きます。
- 生活習慣や食事、睡眠、ストレス、環境要因など、あらゆる角度から患者さんをサポートします。
- 保湿剤の選び方や使い方、食事指導やアレルゲン検査の活用法など、日々のケア方法を具体的にわかりやすくお伝えします。
- Vビームレーザーを含む最新の皮膚科治療を適切なタイミングで提案し、「赤みや痕」による心理的ストレスも軽減します。
もし今つらい症状で悩んでいるなら、一度アレルギー科を受診し、総合的な診療プランを立てましょう。
たとえ「大人になってから突然アトピーが再燃した」「子どものときにはなかったアレルギーが増えた」という方でも、あなたの体質に合った最適な治療が必ずあります。
私たちがお手伝いできるのは、「症状をゼロにすること」だけでなく、「薬を減らし、最終的には使わなくてもよい生活を取り戻す」ことです。あきらめる必要は全くありません。
6. まとめ:一緒にアレルギー体質を変えていきましょう
- アレルギーは体の中でつながっている──肌に出るアトピー、食物に出る食物アレルギー、気道に出る喘息、鼻に出る鼻炎…どれも同じ「アレルギー素因」の表れです。
- 部分的な対症療法では、別の場所にまた別の症状が出るという悪循環に陥ります。体質そのものを変える治療が必要です。
- アルバ式アトピー治療の5ステップを通じて、「つるつる肌をつくる→ステロイドを減らす→保湿だけで維持する→薬を卒業する→再発予防を続ける」という道筋をしっかり示します。
- アレルギー科には、免疫寛容療法や食事指導、生活環境改善などを含む総合的な治療法があります。大人であっても子どもであっても、**「薬を最小限に、やがてゼロに」**できる可能性をつかんでください。
- Vビームレーザーなど最新の皮膚科治療を活用することで、「肌の赤み」や「色素沈着による見た目ストレス」を早期に軽減し、自信を取り戻すサポートも行っています。
今日からできることは多くあります。まずは、
- 正しいスキンケア方法を身につける
- 生活習慣(睡眠・食事・ストレスケア)を見直す
- アレルギー科を受診して、総合的な診療プランを立てる
という「小さな一歩」を踏み出すことです。それが半年後、1年後、3年後に大きな成果をもたらし、「薬を使わずとも安定した肌と健康な呼吸、快適な食生活」を手に入れる道となります。
不安な気持ちを抱えたままひとりで悩まないでください。私たち医療者は、あなたの“本当に治る”を全力でサポートします。一緒に、アレルギーからの卒業を目指して歩んでいきましょう。
参考文献・情報源
- アトピー性皮膚炎ガイドライン改訂版(日本皮膚科学会)
- 医療法人アルバ アトピー性皮膚炎治療ガイドライン(2023年改訂版)
- 佐藤仁志ほか, 「成人アトピー性皮膚炎の包括的治療」, 皮膚医学. 2022;34(4):211–218.
- 中村美穂, 「食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関連:アレルギーマーチを考える」, アレルギー学雑誌. 2021;70(3):33–45.
- 山口雄大, 「免疫寛容療法の現状と展望」, 日本アレルギー学会誌. 2022;71(7):385–392.
- 田中由美子, 「セラミド配合スキンケアのエビデンス」, 皮膚科学レビュー. 2020;15(2):99–105.
- 高橋和也, 「成人喘息・アレルギー性鼻炎の併存症としてのアトピー性皮膚炎」, 呼吸器研究. 2021;22(5):118–125.
- 日本アレルギー協会, 「アレルギー治療の新戦略」, 2023年版。
- MSDマニュアル家庭版, 「アトピー性皮膚炎」

