インフルエンザワクチンと腕の腫れ
赤ちゃんの頃に軽い卵アレルギーとアトピー性皮膚炎があった。
3歳のころには、食べてもよいと言われていたが、時々口の中がかゆくなる。
小学校に入る前はインフルエンザの予防接種をうけていたのに、引っ越し先のクリニックでは「卵アレルギーがあるなら打てない」と急に予防接種を断られるようになった。
そのクリニックでも去年までは卵アレルギー関係なく打っていたはず。
聞けば、卵アレルギーがある子で何かあったわけではないのに、今年からは突然ダメだになったと。
話も通じず、いつもイライラ、悲しい思いをするばかり。
そのうちインフルエンザの予防接種をすることをやめてしまった。
1)卵アレルギーとインフルエンザワクチンは関係ない
卵アレルギーがあっても、インフルエンザワクチンは大丈夫です1~5)。
重症の卵アレルギーがあっても、インフルエンザワクチンでアナフィラキシーを含めた大きな副反応はなかったことが報告されています1)。
ちょっと、詳しく数字を見てみます1~3)。
【ワクチン中の卵の成分】
・重篤な反応はないレベル:0.6μg/mL 以下
・WHO基準のインフルエンザワクチン:10μg/mL 以下
・日本のインフルエンザワクチン:0.8~4ng/mL未満
→日本のインフルエンザワクチンには卵のアレルギー成分は「0.0008~0.0032㎍未満」
つまり、約150~750本のインフルエンザワクチンを一度に打てば、アレルギー症状が出るかもしれません程度です。
しかし現実はそうもいかず、毎年多くの方が「アレルギーがあるからインフルエンザ予防接種は打てません」と説明され、断られて当院に受診されます。卵アレルギーを理由にインフルエンザワクチン接種を断られる子は52.7%と報告されています1″)。
コロナワクチンは食物アレルギーがあると統計的にアレルギーを起こしやすいのですが、インフルエンザワクチンはあまり関係がありません。
ですが、一般的にはワクチン全てが一緒くたになっています。
現にMR、麻疹、おたふくかぜワクチンには、卵白成分は含まれていませんが、勘違いされて断られることも少なくありません。
一方でインフルエンザワクチンによるアレルギー症状で関係あるのは、治療不十分な気管支喘息。
気管支喘息の治療がされていないか不十分な場合、インフルエンザワクチンで気管支喘息発作が誘発されることが指摘されています6)。
つまり、気管支炎喘息は全く症状がない状態にしておくのが良いのです。
喘鳴が出やすい子は、気管支喘息との区別がつきにくいで、気管支喘息の治療を行いながらインフルエンザワクチンを接種します。
2)インフルエンザワクチンで腕が腫れる子の原因は「保存剤」
しかし、一方で頻度は少ないものの、インフルエンザワクチンでアレルギーを起こす子は一定数いるし、事前の皮膚テストはあまり役に立っていません6)。
インフルエンザワクチンで、「腕が腫れるような子の中にはインフルエンザワクチンによるアレルギーの可能性」が言われています1)。
では、卵アレルギーは大きな問題ではないとして、何が原因でしょうか?
保存剤です。
保存剤として使用されているものでも「フェノキシエタノール」は、「インフルエンザワクチン+フェノキシエタノール」でアレルギー反応を起こす可能性が示唆されています1)。
なので、インフルエンザワクチンで腕が腫れやすい子は、抗アレルギー剤の内服を行いながら接種します6)。経験上、普段よりは各段に腫れにくくはなりますが、この時にジェネリックは使いません。
3)だから、9歳以上は1回接種で保存剤フリー
結局、腕がすごく腫れるような子もインフルエンザワクチンによるアレルギーが怪しく、年齢とともに、軽快していくともいわれていますが、出来るだけ少ない接種で済ませたいものです。
また、日本では13歳以上が1回接種、それ以下の子は2回接種。
しかし、世界では9歳以上は1回接種で、効果に大きな差はありません。
このため、当院では
・保存剤フリーのワクチンを使用
・生後6ヶ月~9歳 2回、10歳以上 1回接種
・腕が腫れる子は事前に抗アレルギー剤内服
を行い、出来るだけ回数を少なく、安全に接種を行っています。
4)受験生、子どもは必ず接種をお勧め
インフルエンザに感染する人は、コロナ前の1/1000に減少していますが、インフルエンザウイルスから体を守る抗体の量が減っている可能性が指摘されています。
ワクチンは可能性(リスク)を減らすもの。
このため将来ある子どもたちには、リスクを減らす考え方を身につけるために、そして受験生や持病がある人は必ず接種を勧めています。
5)これが必要です
①コロナワクチンとは2週間開ける
全てのワクチンはコロナワクチンとは2週間開けます。
②保存剤フリーと抗アレルギー剤がお勧め
アレルギーの原因としてわかっている一つは、保存剤「フェノキシエタノール」です。
③結局は、どのアレルギー症状もなしにしておくべき
気管支喘息だけではありません。
参考文献
1)長尾みづほ. 診療現場の疑問から臨床研究へ. 日小ア誌 2015;29:18-21.
2)内田理、菅井和子. 鶏卵アレルギー. 小児食物アレルギーUP DATE. P681. 金原出版.
3)伊藤節子. 食物アレルギー診療ガイドライン 第9章 食物アレルギーの治療. 日小ア誌.2013;27:605.
4)Paul J. Turner. etal. Safety of live attenuated influenza vaccine in atopic children with egg allergy. JACI 136(2); P376-381, 2015.
5)Ann Des Roches etal. Egg-allergic patients can be safely vaccinated against influenza. JACI 130(5):P1213-1216, 2012.
6)小 島 崇 嗣、他. アレルギー疾患合併患児に対するインフルエンザワクチン接種の副反応とフマル酸ケトフェチン予防内服の有効性. 目小児ア誌. 2004;18(2), 184~192.
1″)平口 雪子、他. 鶏卵アレルギーのある児へのインフルエンザワクチン接種に関する保護者アンケート調査. 日小ア誌 2012;26:732-739.
7)大谷 清孝、他. 鶏卵アレルギーと接種量が増量となったインフルエンザワクチンの安全性に関する検討. 日小ア誌. 2015;29:665-675