成人のナッツアレルギー
以前からクルミを食べるとクチビルが腫れるような感じはあった。
ある日、友人の子どもが、いつもと同じクルミを食べただけなのに、顔真っ赤になり腫れあがり、救急車で運ばれた。
近くのクリニック受診したが、うちでは対応出来ないと大学病院を紹介されたが、大学でもうちで対応する病気ではないと言われ、症状が出たら救急車を呼ぶようにと言われただけ。
友人はどうなるのか、日常生活をどうして良いかわからず、常に不安。
自分もクチビルが腫れる以外にも症状が出るのか、不安になってきた。
1)ナッツアレルギーでも、ひどくはならない?
小児のナッツアレルギーでは、命の危険があるアナフィラキシーになることが多いですが、成人は、口の中が痒い、顔が紅い、腫れるなどです。
つまり、成人のナッツアレルギーは「医学的に軽く」済む人が多いとも言われています。
ここで、注意が必要なのはあくまで「成人は医学的に軽いことが多い」とゆうこと。
本人としては、アレルギー症状に慣れている訳ではないので、口の腫れがひどくなり、呼吸苦が苦しい感じがした時には、強い恐怖を感じるのが普通です。
また、ナッツアレルギーは自然に治ることはないので、小児期に重症だった人が成人になって軽症になることはありません。
例え医者から「軽い」と言われても、「自分自身はどう感じたか」の方が大切です。
アレルギーは、「症状を起こさず今後の生活をどうすれば良いのか」が最大のポイント。
ここが主治医とズレると、会話がなりたちません。
2) ナッツの種類で、「差」がある
ナッツアレルギーは、ピーナッツが有名ですが、すべてのナッツがアレルギーの原因になります。
また小児では、住んでいる地域によって、どのナッツがアレルギーになるのかは大きな差があります。
例えば、北海道でのナッツアレルギーは、クルミとカシューナッツ、マカダミア、ピスタチオ、ヘーゼルナッツのアレルギーが合併することが多い印象ですが、ピーナッツは本州に比べてかなり少ない傾向にあります。
一方で、仙台から南の地域はピーナッツの方が顕著に多い印象を受けています。
地域差は小児では顕著ですが、成人ではあまり変わらない気がしています。
例えば、私のところにアナフィラキシーで搬送された成人169名中ナッツが原因だったのは、ピーナッツの2名のみ。
どちらも小児期からピーナッツアレルギーがありました。
経験的にも、成人発症された他のナッツアレルギーの方は、口の中が痒い、顔が紅くなる程度で済んでいます。
食べている最中から違和感があるため、それ以上食べないことも大きな理由です。
しかし、成人発症のナッツアレルギーは小児と違い口唇腫脹、顔面の紅斑が最も多く、これ以外は少ない印象があります。
ちなみに「小児と違い」は、小児では成人よりひどい症状になる場合が多いとゆうことです。
3)ピーナッツと、他のナッツは違う
ピーナッツは、地面に生えるマメ科の食物で、大豆の仲間です。
他のナッツ、クルミ(クルミ科)、ヘーゼルナッツ(カバノキ科)、ピスタチオ(ウルシ科)、カシューナッツ(ウルシ科)、マカダミア(ヤマモガシ科)は、木から取れる「木の実」。
なので、そもそものアレルギー成分が違います。
ピーナッツアレルギーを持っている人が、他のナッツアレルギーを合併する頻度は30%とされますが、地域差があり、北海道ではこの割合はずっと低いです。
例えば、私のところに受診するピーナッツアレルギーの方は、「ピーナッツだけ」のことが大半です。
ピーナッツアレルギーの人は住んでいる地域によって、なりやすさにも大きな差があります。
しかし、「木の実」類のアレルギーの場合には、他のナッツアレルギーを合併していることが多く、近年はクルミが最多で、カシュ―ナッツとピスタチオの合併はほぼ必発、これにマカダミアが人によって合わさることが多い印象です。
また、家庭でピーカンナッツを食べる習慣のある場合には、クルミとピーカンナッツの合併割合が増えます。
また、北海道でのナッツアレルギーは、花粉・食物アレルギー症候群の影響が強くあり、果物・野菜アレルギーを合併していることがほとんどです。
#この傾向は、近年成人で強い印象があるこちら
4)問題になるナッツは決まっている
海外と比較して、日本ではあまりナッツを食べる習慣がなく、問題になるのは、クルミ、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミア、ピーナッツがほとんどです。
あまり問題にならないのは、ヘーゼルナッツ、ブラジリアンナッツ、ピーカン、パインナッツなどです。
一方で、海外居住歴がある方は、子どもも含めてこれらのアレルギーの割合は多くなり、特にヘーゼルナッツが増えている印象があります。
一方で、基本的にアレルギーにならないのは、アーモンド、ココナッツ、パンプキンの種、ひまわりの種などです。
あくまでも「基本的」なので、私はすべてのナッツアレルギーの患者さんの経験がありますが、「基本的にアレルギーにならないナッツ」は、私のようにアレルギーしか診察していないといった医者でも非常に珍しく、他の医師は人生で出会うこともないのではないかと思います。
数年前までは、アーモンドアレルギーはアメリカでもマレであると文献には記載されていましたが、アーモンド製品の流行から近年明らかに増えている印象です。
成人の食物アレルギー全般で言えることですが、小麦アレルギーを除き、救急車で搬送される方の多くは、口の中が痒いなどの軽い症状を無視した結果、大きな症状を出されることが多いです。
「いつもは大丈夫だった」は、アレルギーには通用しないので注意しましょう。
5)現場では、間違えて採血で診断されている
食物アレルギー全般に言えることですが、採血だけでは絶対にわかりません。
例えば、ピーナッツアレルギー234例で、他のナッツに対して感作があったのは86%、このうち実際にナッツアレルギーだったのは34%でした①)。
「食物アレルギーは、食べて症状が出て、初めて食物アレルギー」なので、食べても症状が出なければ、食物アレルギーではありません。
我々アレルギー医は、ナッツアレルギーの場合、Arah2、Jugr1、Anao3など(上記全て健康保険適応クリニックでも検査可能)、特殊な項目を検査します。
特にナッツは、特殊な項目をみなければ採血だけで判断することはできません。
そもそも、食物アレルギーの採血は症状が出る確率を計測しているだけなので、症状がひどくなるかどうかも、採血ではわかりません。
我々は研究データを持っており、その結果から、「あなたの場合には、このアレルギーである確率は~%。だから、~が必要」と判断します。
この検査結果をもとに、皮膚テストや負荷試験(実際に食べてみる)検査をおこないます。
6)ナッツアレルギーで困るかは、ライフスタイルによる
ナッツを食べる習慣がなければ、日本に住んでいる限り、日常生活でナッツアレルギーで困ることは正直ないようです。
言い換えれば、食べなければ症状は出ませんので、ライフスタイルとして食べてないのであれば、問題にはならない人がほとんどです。
①症状は、すぐに出る
殆どの方は、口が痒い、顔が紅くなるなど、わかりやすい症状が食べいる最中に、または15分~30分程度、遅くても2時間以内にはでます。
少ないですが、12時間程度、例えば昼食べて翌日の朝になって顔が紅いことに気が付くなどの症状が出る方もいらっしゃいます。
このタイプの方は、自分でも気が付きにくいです。
②症状があるなら、食べられない
ナッツアレルギーは「自然に治ることはありません」
小児では、ナッツの種類によって運よく治る子もいないわけではありませんが、免疫が成熟している成人では無理です。
食べて症状があるのであれば、「食べない方がよい」のではなく、「食べられない」が正解です。
当然、加熱しても食べれることはありません。
③注意するのは、チョコレートとドレッシング
成人の場合には、チョコレートとドレッシングに入ったナッツで症状を起こします。
子どもと違って間違えて、そのものを食べることはないからです。
チョコレートの場合には、ほとんどがヘーゼルナッツで、ドレッシングはクルミが圧倒的に多い印象です。
日本では近年チョコレートにヘーゼルナッツが混じっていることが多く、口が痒くなることで気が付くことが大半です。
特にヨーロッパブランドのチョコレートには、ヘーゼルナッツが多く使われています。
もちろん、アナフィラキシーを起こすこともありますが、食べた翌日など、一定の時間差を置いて症状を出すことも少なくありません。
この辺は、慣れた医師でないと診断をつけるのは難しいと思います。
【参考文献】
①Maloney, etal. JACI. 122:145-151. 2008.